2016
09.08

「殺人出産」村田沙耶香

Category: 本の感想

今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。
(「BOOK」データベースより)


これは面白かった。
タイトルがインパクト強くて、これ、芥川賞を取った人かーと思ったら気になって買ってみたら思った以上に当たりだった。

表題作の「殺人出産」を含め、どれも特殊な倫理観に支配された世界の話なんだけど、だから世界を変えようだとか、何か波乱があるわけではなく、それぞれがその世界の一部として普通に生きてる人々を自然に描いたような、一見現代風に見えるけど私からしたらとてもSFチックなお話に思えてすごく面白かった。

「殺人出産」
10人産んだら1人を殺せる、それが当たり前で産む人は尊いものだと思われる世界の話。システム設定自体はとても面白いと思ったけど同時にいや現実的じゃないよねとは思ってしまった。どうやったって"死ぬ人"からは苦情が来るんじゃないか、現にそういう人もいるみたいだけど少数派みたいな雰囲気になってて。まあそこが主題ではないのだろうけど、それが常識と化してしまったら死すら人は受け入れるものなのかとそこが気になってしまった。ただ普通に殺人を犯してしまった最高刑が死刑じゃなくて産刑(子供を産ます)、人を殺したら人を産む、というのは最高じゃないかと思った。生まれてくる子はかわいそうだけど。それでもそんな子ばかりが量産されたらかわいそうも何もないのかもしれない。

「トリプル」
2人ではなく3人で付き合うことが当たり前となりつつあるとある若者たちの話。この設定は面白いなぁと思えた。短編として終わらせるのはもったいないくらい自然に設定に世界が馴染んでいて、男2女1だったり女2男1だったり、それが現実的かどうかはともかくその世界の彼らはすごく仲良くやれているのでもうちょっと見ていたいと思えた。

「清潔な結婚」
恋愛の延長上ではなく、家族のようなパートナーとしての関係を望み結婚した二人のお話。お互い愛人を持つことも了承してあくまで家では兄妹のようにと暮らしている二人。もちろん周囲には理解されなかったりもするけど本人たちが幸せそうでこれも一つの幸せの話だなと私は勝手に思ってしまった。例のあのシーンはまさかのギャグシーン以外の何ものでもなくて、まさかこの作品でここまで笑いをこらえるはめになるとは思いもしませんでした。

「余命」
ものすごく短いショートショートのような。
医療が発達し、自らの意志で"死"を決められる時代になってたいたその世界で、そろそろだなと思い立った主人公がたんたんと身辺を整理し思い通りの死を迎える話。
いいも悪いもなくただそれだけのたんたんとした話なんだけどとてもいいなと思った。

これまでの作品を見ていると、どれもわりとみんな幸せなんですよね。今の私たちから見たら、とても残酷だったり不可解だったりすることでも彼らはその世界の常識のもとで幸せに暮らしている。これは作者の作風なのかな。このあっさり風味な雰囲気がすごく私にはあってる気がして。他作品もすごく気になるので読んでみます。


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